注:青の太字は山本周五郎作「青べか物語」の原文から引用しました。
参考文献:山本周五郎著「青ベカ日記」
       木村久邇典著「素顔の山本周五郎」
         同     「青ベカ慕情」
         同     「山本周五郎・青春時代」


写真は猫実にある「庚申塔」です。

青べか紀行 P6

 『この町ではときたま、太陽が二つ、東と西の地平線にあらわれることがある。そういう時はすぐにソッポを向かなければ危ない。おかしなことがあるものだ、などといって二つの太陽を見ると「うみどんぼ野郎」になってしまう。そうしてその時はすぐ脇のほうでカワウソかイタチの笑っている声が聞こえるということである。   特にイタチはたちの悪いいたずらがすきで、人が道を歩いていると、ひょいと向こうへ飛び出してきて、立ち上がって交通整理でもするように、右手をあげて右をさしたり、左手で左の方をさしたりする。そうしたら必ず反対のほうにゆかなければならない。うっかりそちらにいけば、きまって池か堀か、悪くすると根戸川に落ち込んでしまう、と云われていた』
 
 太陽がふたつあがる話は「地っ子」である古老に聞いても知らない話でした。ところで「地っ子」とは三代続いてこの浦安で生まれ育った人達をさして云う言葉です。私のように他の土地から移転して住んでいる人間を「地っ子」は「いしょく」と呼んで区別していたようです。

 何故「いしょく」かと云うと、昔、海苔の養殖をしていた当時、海苔の種付けは他の土地(上総沿岸一帯)で行い、そして浦安に移植していたので他の土地から来た人間を「いしょく」と呼んだようです。今ではそうした呼び方はしませんが、古老達は「地っ子」と自らを呼んでいます。私はやっと二代目が結婚して孫が生まれましたのでさしづめ「地っ子」と呼ばれるようになるのか、などと思っています。

 「海どんぼ野郎」の意味を調べましたが、なかなかこの言葉自体を知っている人達はいませんでした。元漁師さん、舟大工さん等にも聞いたし、市の学芸員に聞いても不明でした。

 が先日、市の教育委員会主催で「べか舟」の体験乗船会で舟を操っていた元漁師で、佐藤輝雄(屋号・千駄堀)さんが「それは海のトンボという意味で、浦安では訛ってドンボと云い、海に行ったきり帰って来ず、行った先々で泊まるようなトンボのような男の事を云うだよ」と教えてくれました。
 納得!でした。この「千駄堀」さんは祖父の時代に松戸の千駄堀から浦安に来て、漁師となって三代目であり、歳は86才でかくしゃくとしていました。「青べか物語」に登場する「長」さんとはひとつ違いだそうで、元気でいてもらいたいと念じています。